世界一カワイソウなインド人映画監督:『インモータルズ-神々の戦い-』

インモータルズ-神々の戦い-』鑑賞。
相変わらずターセム・シン監督の映画のお話は超つまらないのだが、映像と石岡瑛子の衣装が超凄いのも相変わらず。そしてエログロが前作・前々作の10倍増し。でも、これも『300』のパクリとかいわれちゃうのかなぁ。ターセムは世界一カワイそうなインド人映画監督だと思う。


ターセム・シンほど評価の分かれる監督はいないだろう。映画や現代アートについて何も知らない人間がターセム監督映画を観ると、究極の映像美を誇るカットがこれでもかこれでもかと続き、ちょっと話が薄っぺらいかもしれないと感じるものの、至宝の名作のように思える。一方で、南米や東欧やロシアといった非ハリウッド圏における名作映画にちょっとでも詳しい人間、現代アートについて広く浅くでも網羅的に抑えている人間なら、あちこちの映画や絵画からの引用で成り立っているということが一目で分かるのだ。


ザ・セル デラックス版〈特別プレミアム版〉 [DVD]
B00005LJWF
たとえば、『ザ・セル』はいかにもハリウッドの脚本家が用意した典型的猟奇犯罪モノのストーリーに、ダミアン・ハーストやピエール・エ・ジルといった現代アートをショーケースのようにはめ込んだ映画であった。
ザ・フォール/落下の王国 [Blu-ray]
B001KUP8WE
続く『落下の王国』は、ターセムが子供の頃観て感動したというブルガリア映画『Yo Ho Ho』そのままのストーリーに、ブラザーズ・クエイヤン・シュヴァンクマイエルホドロフスキーパラジャーノフといった監督の要素を引用してきた映画だった。
自分など、『落下の王国』を観て「ターセム頑張ったじゃん!」などと素直に思ってしまったクチなのだが、昨年HD化された『エル・トポ』や『ホーリーマウンテン』を観て、複雑な気分になってしまったものだ。
アレハンドロ・ホドロフスキー DVD-BOX
B004AM6Q9I


ただ、ここで重要なのは、引用やオマージュやサンプリングといったものが、別に悪いものじゃないということだ。たとえばリドリー・スコットは初期作から最近作まで、重要なシーンに絵画からの引用を持ってくることが多い。庵野秀明は日本特撮、岡本喜八謎の円盤UFO等々、オタクとして拘ってきたあらゆるもののオマージュを『トップ』や『ナディア』や『エヴァ』に込めていた。タランティーノなんてあちこちのボンクラ映画からのサンプリングで映画を成り立たせているといって良い。あらゆる人間活動は模倣から生まれる。あらゆる芸術は文脈という名の影響から逃れられない。ターセム自身もDVDのコメンタリーで「このシーンはケン・ラッセルから引用したんだよ」とあっけらかんと発言しているのだが、嬉しそうに自分が引用したりサンプリングしたテレビや映画について「大好きだ!」とまくし立てる庵野秀明タランティーノと何が違うのか? 何故、庵野秀明タランティーノが愛される一方で、ターセム・シンは微妙な目で見られるのか?


答えは簡単だ。引用やオマージュやサンプリングを積み重ねた結果、他の何物にも代え難いオリジナルな魅力が生まれるか、もしくは、引用やオマージュやサンプリングを除いていった結果、他の何物にも無いオリジナルな魅力が残るか、そのどちらかで無い限り、観客からこう呟かれることになる。「それってパクリなんじゃねーの?」


早い話、皆、パンツを脱いでないことにイラっとくるわけだ。や、全ての映画監督がパンツを脱ぐべき、なんていってないよ。でも、同じように様々な既存の作品からサンプリングしつつも、ターセムと違って庵野秀明タランティーノが愛されるのは、明らかにパンツを脱いでいるからだろう。
一方で、リドリー・スコット押井守北野武はパンツを脱いでいない。それでも(ターセムよりは)観客から愛されている。何故か? 多分、彼らは前者――「引用やオマージュやサンプリングを積み重ねた結果、他の何物にも代え難いオリジナルな魅力を生んでいる」からなのだろう。同じように西洋絵画について勉強しまくったり、ゴダールタルコフスキーを観まくったとしても、誰もがリドスコ押井守北野武になれるわけじゃない。言い換えれば、彼らはパンツの中身をチラチラ見せていて、その見せ方にこそ魅力があるのだろう。


そんなことを書きつつも、矛盾するようだが、自分はターセム・シンが大好きなんだよね。
リュミエールの時代から、映画とは見世物だ。そして現在、あらゆる表現は出尽くしてしまったかのようにみえる。既存の要素をセンス良く並べる。それも映像的にセンス良く。それだけでも大変な仕事で、その手腕において、ターセム・シンは明らかに他の監督を頭一つも二つも上回っているようにみえる。ターセムの映画を観るといつも、パンツ脱がない女が一番エロいのではないかという気にさせられるのだ。
それなのに、ターセムは「パクリ野郎」のレッテルから逃れられない。褒められるのはいつも衣装デザインを務める石岡瑛子の仕事だけだ。石岡瑛子だって他のファッションデザイナーや現代アートの影響を少なからず受けているのに。なんてかわいそうなターセム・シン。先日の日テレのドキュメンタリーでは、どんなに素晴らしい仕事をしても親父との関係性から逃れられない宮崎吾郎のことを「日本一カワイソウな映画監督」と呼んでいたが、ターセム・シンは世界一カワイソウなインド人映画監督ではなかろうか。



で、もの凄く前置きが長くなったのだが、ターセム監督の新作『インモータルズ』である。
本作、ミケランジェロビザンチンのモザイク画、『300』からの引用で埋め尽くされている。この映画が行っている引用を全て指摘して眺めた結果、気が付くオリジナルな魅力とは何か? 或いは、全ての引用を除いた時、そこに残るオリジナルな魅力とは何か?
多分、それは暴力と残酷とグロ描写だろう。腕や脚や首からは盛大に赤い血が噴出するし、人体はスローモーションで景気よく破壊される。敵を演じるミッキー・ロークも荒ぶる神を演じるルーク・エヴァンズも暴力的だ。傷跡や青タンはリアルであるし、切株描写も厭わない。そのおかげで本作はシネコン映画にしては珍しくR-15指定となったが、多分ここが最大の魅力なんじゃないかと思う。自分はターセムのパンツの中身をチラ見できたような気がした。頑張れターセム! リドスコまであともうちょっとだ!