深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている:『痛快!!ビッグダディ12 ・2週連続スペシャル!2』
(前回からの続きです)
一週間のご無沙汰だ。
ついに始まったぜ『ビッグダディ』後編! とばかりにテレビをつけ食い入るように観る体制を整えたものの、土曜の夜6時半からという時間が悪かった。丁度夕飯時だった我が家は食卓を囲みつつ家族で鑑賞と相成ったわけだが、開始十分足らずで嫁が一言
「こんな気持ち悪い番組、食事中に観たくない」
……嫁の言によると、こんなのはスーパーで万引きする主婦や老人の姿を報道と称して全国に晒すような番組と五十歩百歩なのだという。前のエントリについたはてブコメントにも同様のものがあったのだが、この『ビッグダディ』という番組、一部の層にはえらく評判が悪い。
そんなわけで、急いで夕飯を食って子供を風呂に入れた後、録画で観ることに。ほとんど『全員集合』を観る為に急いで風呂に入る小学生気分だ。なんか、ゴールデンタイムに放映される番組をこんなにも楽しみに待ち望むことなんて、ここ数年無かったなぁ。
まず冒頭。これまでの説明代わりに先週のリアル喧嘩を再放送するも、一晩開けたらいきなり仲直り。「夜、何があったんでしょうか?」といつもながらに白々しいナレーション。何があったかって、男と女が閨を共にした後仲直りしたってことは、そりゃセックスに決まってんだろ!
だが、接骨院を辞めてしまったので、社員寮である今の住まいを数日以内に出て行かなくてはならないというギリギリの状況は変わらない。
そんなダディ達が次に選んだ移住先は小豆島。家賃5万円な割に綺麗な物件を借りるのが良いか、築42年と古いが数年分の家賃で譲ってくれるという中古物件を買うのが良いのか? 悩むビッグダディとニューマミィ。
「(家賃)5万円の方は、5ヶ月住んだら50万円だもんね」
「……計算間違ってる」
思わず突っ込むダディ。ダディにつっこまれちゃおしまいだ。
で、またもや「新居の購入費は友人に借りた」と白々しいナレーション。そんな友人いままで影も形も無かったが、きっとテレビ局に勤める友人だろう。
いよいよ小豆島に移住。だが、愛知県豊田市で既に就職と修行中の長女と長男だけは残ることに。
どうですか、これからの生活? というスタッフの問いに「楽しく」「鬼も何にもいないので」と清々しい顔で答える二人。「強がりをいってみる二人」なんてナレーションがかかる。いやいやいや、そんなわけ無いから! これから待っている自由な生活に胸ワクワクだから!
小豆島に引越し直後、引越作業の疲れからかまたもや夫婦喧嘩するダディとニューマミィ。喧嘩の原因は何かというと、サバの缶詰を皿に出すか否かという、世にもみみっちいことだ。だが、イライラしたダディがニューマミィを脚で小突いたのは不味かった。ニューマミィは元ヤンらしく、小突かれて黙って泣くような女ではなく、おさまりがつかないという泥沼になったのだ。
一応、その場ではなんとかおさまりがついたのだが、翌日マミィに蒸し返され、またもやマジ喧嘩。ダディは経験豊かなので土下座で挑発する高等テクニックを披露するが、それがますます若嫁の怒りに火をつける。思わずカメラが後じさり、隣の部屋に移動したのを自分は見逃さなかったよ。これ撮影入ってなかったら手が出てるよね。あ、もう脚が出てるか。
それにしても、ダディとニューマミィに比べて、子供たちは本当に可愛いなぁ。
ビッグダディ夫妻の喧嘩を止めようと子供たちだけで急遽家族会議。親が違うけれど、もう家族だ。初登校から帰ったら「社会の授業で、ニュース観て気になったことを発表するんだって。でも、うちテレビ無いからわかんないの(笑)」と笑顔で話す。隣家族から貰った古着の体操服を着て100万ドルの笑顔。泣かせるなぁ。ここだけ観るとまるで『ALWAYS』みたいだ。ビッグダディとは暮らしたくないけど、この子供たちと同居ならアリだ。でも娘が「安西先生、バスケがしたいです」って……何歳だ?
さて、問題は小豆島での仕事だ。ハローワークに行くも、ピンとくる仕事が無かった。だからやる気でなかった。でもそれを妻の前で誤魔化すビッグダディ。でも、このはぐらかし方は夫婦やってる人間としてはリアルでもある。ダディも喧嘩で学習したんかな。
そんでもって、よりによって同業者のライバルが三軒もいる地域で接骨院を開くダディ。長男も豊田市で修行中であることだし、手に身についた職を生かして開業するのは悪い手じゃないと思うけれど、もうちょっと現地調査して、接骨院の無い土地に移住すれば良いのに。
ダディは得意のイラストを活かして接骨院開業の宣伝チラシを準備する。コピー屋に持っていく際に原稿を「折らないでよ」とまるで保護者のように注意するニューマミィ。イラっとするビッグダディだが、不穏な空気が発生したのを感じてスルーしたことにするダディ。本当にリアルだなぁ。
で、開いた接骨院に一人目の客が来るところで終了。「ビッグダディの新生活はこれからだ」というナレーションが光る。やっぱりこの番組はマージナルな家族のリアルライフをポリティカル・コレクトすぎるナレーションでくるむ作りが異様に面白い。でも、ダディの人生はインコレクトなんだよなぁ。
さて、今回放送された「2」は衝撃展開だった「1」と比べて綺麗に終わった分大人しめに感じるものの、それでもエクストリームな部分は多々あった。一番凄かったのは、やはり夫婦喧嘩だ。あれが一番の見所であろう。
たかがサバ缶を更に出す・出さないなのに……と呆れてはいけない。正直、これは気持ち分かる。限界まで疲れてる時の家族はこうなるよ。我が家も昨年引越した直後にどさくさに紛れて家の権利証がみつからず、嫁とマジ喧嘩しそうな事態になった。一応、その時は「お互い疲れてるから、頭を冷やそう」みたいなことを言い合って、でなんとか場は収まったのだが、夫婦というのはそういう時があるから辛いよね。
そう考えるとビッグダディ夫妻に足りないものが分かる。「今、おれたち夫婦は客観的にみるとどういう状態か?」という外部からの視点だ。逆にいえば、その視点を視聴者が代行しているからこそこの番組が成立しているともいえる。
リアル夫婦という観点でいえば、ちょっと『レボリューショナリー・ロード』を連想したりもした。ニューマミィが願っているのは「ここではないどこか」。一方、ダディが願っているのは……セックスかなぁ。まぁ、ダディはディカプリオじゃないけどな。
そういえば、『レボリューショナリー・ロード』の物語が動き出すのもマイケル・シャノン演じる男の一言という外部からの視点だった。彼が口にするのはディカプリオとケイト・ウィンスレット夫妻が抱える問題点の本質だった。そして、あの夫妻がフランスに移住したとしても問題が解決したとは思えないのと同じように、ビッグダディとニューマミィ夫妻が移住しても問題が解決するとは思えない。
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だが、ビッグダディを哂う人は、果たしてダディよりも幸せなのか? という問いもある。ダディを哂う者はダディに泣く。勿論、これは自分含めての話だ。果たして、自分はビッグダディよりも幸せなのか?
……や、幸せだな。でも、ダディの子供より幸せかどうかはちょっと分からん。あんな気持ちの良い兄さん姐さんや弟や妹がいて(それはダディやマミィの気持ち悪さがあってこそなのだと思うけれども)、離島の大自然の中で過ごしていたら、もうちょっと素直な人間になっていたかもしれない。比較として出すのは申し訳ないのだが、翌々日に放送されていた『貧乏に負けるな!2男12女!ワケアリ大家族』の子供達が問題だらけだった(ようにみえる)のとは対照的だ。
あそこまでダディの女癖が悪くなくて、夫婦仲も悪くなければ、ダディの暮らしも悪くない。安定した給料を得る代わりにストレスの多い職に就くより、貧乏ながらもストレスの無い仕事をし、大自然の中で子供を何人も育てながら暮らすというのはアリだろう。
何よりも、今の世の中で「安定した仕事」なんてのがあるのだろうか。以前もちょっと書いたが、子供手当てがもうちょっと増額されて、ある程度の長期間支給が続くという見込み(今の政権をみていると、状況次第ですぐ廃止や支給停止されそうだ)があるのならば、子供を沢山作るのも悪くない。13人はさすがに多すぎるけれども。