還ってきたキャプテン:『キャプテンEO』

Captain EO 69cm x 102cm (approx.) Poster
久しぶりにディズニーランドに行ってきた。なんで行ったのかというと、ぶっちゃけ嫁と子供が連れてゆけと訴えたからなのだが、他にも理由があった。


そろそろ『キャプテンEO』が観たかったのだな。

ご存知の方も多いと思うが、『キャプテンEO』は昨年の六月に一年限定で復活したアトラクションだ。その後、好評につき一年限定のワクを取っ払ってレギュラー化することがアナウンスされたのだが、行こう行こうと思いつつ行けなかったんだよね。震災の影響か、意外に空いているという噂を聞きつけたので、行ってきたよ!



まず入って驚くのは、昔のままの内装だ。いや、本当に昔のままかどうかは分からないよ。でも、並んでる途中に流れるいかにもビデオ録画といった映像の雰囲気とか、ステレオ印刷されたポスターなんかには、自分が小中学生だった頃、ディズニーランドを訪れた記憶を強烈に想起させられた。80年代の未来が、今やレトロフューチャーとなったのだ。


壁に書いてある見出し文も凄い。
「いま、25年の時を越えて、世界を変えるためにキャプテンが帰ってきました!」
世界を変えるために! なんて大仰なコピーだろう。しかし、熱い。確かに、80年代の、まだ黒かった頃のマイケル・ジャクソンが仮託されていたイメージは、そのようなものだった。才能溢れるマイノリティが、世界を変えるのだと。



実際に観てみると、3Dよりも画質よりも、記憶以上にマイケルが黒いことに驚く。やっぱり、皆が好きだったのはゲイやペドの噂が立つ前の、黒かった頃のマイケル・ジャクソンなんだよなぁ。新しく加えられた鼻汁に合わせてシャワーが吹き出す演出や、CG全盛の今となってはすっかりお目にかかれなくなってしまったストップモーションやフィルム合成も良かった。何よりも、歌と踊りで「世界を変える」というストーリーが良い。ジョーゼフ・キャンベルは『スター・ウォーズ』を「神話無きアメリカの神話」と呼んでいたけれど、これ、マイケル・ジャクソンというキャラクターを主役にした『スター・ウォーズ』だったんだなぁ。思わずTシャツなんか買ってしまったよ



ディズニーランドってのは、アメリカという国のモニュメント的なところがあると思う。

たとえば、ディズニーランドに入園してすぐ通ることになる「ワールドバザール」は、ウォルト・ディズニーが子供時代を過ごしたミズーリ州マセリーンの街並みがモデルとされているが、その実は20世紀初頭のアメリカの典型的な地方都市の再現だ。日本人にとっての『ALWAYS 三丁目の夕日』的なものといえる。東京ディズニーランド以外では「メインストリートUSA」と呼ばれているのも頷ける。
ウエスタンランド」は西武開拓時代、「クリッターカントリー」はアメリカの真の中心部である南部の大自然の象徴だ。「ファンタジーランド」はヨーロッパの童話を題材にしているように思えるが、その実は「本当は恐ろしい」オリジナルから残酷さや性的要素を排除し、無菌化し、歴史の浅さ故に童話無き国アメリカの童話に作り変えたディズニーアニメが題材だ。

トゥモローランド」は未来世界がテーマと思いきや、その実態はフォードシステムによる大量生産が導く未来、或いは、マーキュリー計画アポロ計画といったアメリカ宇宙開発の象徴だ。トゥモローなんて名前を冠しながらも、絶対にブレードランナーマトリックス的未来をイメージしたアトラクションが登場しそうにないところから、理解していただけるのではないかと思う。『ブレラン』も『マトリックス』もサイバーパンクアメリカ産なのだけれども。
ディズニーランドという聖地 (岩波新書)
能登路 雅子
4004301327


で、そう考えると、マイケルの死後に『キャプテンEO』が復活し、レギュラーアトラクションとなったのは意義深い出来事だと思う。
早い話、これでマイケルは名実共に「アメリカの伝説」や「アメリカの神話」になったのじゃなかろうか。
ディズニーランドはアメリカ文化の聖地、それも残酷さや性的要素が排除され、ポジティブな愛や希望に溢れた聖地だ。マイケルに残酷さはなかった。マイケルはポジティブで愛や希望に溢れた歌ばかり唄っていた。小児性愛や父親からの虐待といった要素がディズニーランドに似つかわしくないイメージだったが、マイケルの死によってそれらネガティブな性的イメージも緩和あるいは払拭された。浄化や、禊を済ませたと言い換えてもいいかもしれない。


そしてキャプテンは「世界を変える」ために還ってきた。


だから、今『キャプテンEO』を観ると、色々と感慨深いものがこみ上げてくる。自分が一番好きなAV女優の鈴木杏里は「チケットがあるから行こうよ」じゃお断りだけど、「『キャプテンEO』を見に行こうよ」なら誘いに乗る、なんて文章をブログに書いていたのだが、その気持ちよく分かる。今後、もし万が一にも鈴木杏里をデートに誘うような機会があれば、記憶に留めておきたいねぇ。




そうそう、噂通り、東京ディズニーランドは空いていたよ。たしか、五年くらい前に来た時は『ホーンテッドマンション』300分待ちに閉口したものだが、どのアトラクションも一時間も待たずに入ることができた。そういや、普段のディズニーに比べて外国人が少ない気がしたが、やはり原発事故の影響なのだろうなぁ。