常に希望はある:『スカイライン -征服-』

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スカイライン -征服-』鑑賞。世間では賛否両論のB級映画という扱いらしいが、今年のトレンドであるところの宇宙人侵略モノ映画における傑作の一つなのではないかと思ったよ。まぁ、『スーパー8』も面白かったけれども。


本作は基本的に絵作りも演出も物語も、どこかで観たSF映画の引用に過ぎない。ぶっちゃけ『宇宙戦争*1』と『クローバーフィールド』と『ミスト』と『ID4』の寄せ集めだし、キャストもいかにもギャラの安そうな無名の役者ばかりだ。しかし、それが総体として本作独自の魅力を放っているんだよね。SFXは低予算とは思えないほど素晴らしく、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』がこれまでのSF映画劣化コピーだとしたら、『スカイライン』はクオリティ三倍マシのコピーだ。無名の役者がメインキャストということは、普遍性があるということだ。まさか、駄作の中の駄作と言われた『AVP2』の監督にこんな傑作を作る力があろうとは!
なんでもネット上で拾い読みした噂によると、『世界侵略:ロサンゼルス決戦』のSFXを担当したストラウス兄弟は「俺たちならもっと少ない予算でスゲー映画ができるぜ!」とばかりに本作を作ったらしいのだが、きっとバリバリに素材を使い回したんだろうなぁ。他のゲームの素材やアーカイブをバリバリ引用して制作費を抑えたにも関わらず、確かに傑作ゲームであった『SIMPLE2000 THE地球防衛軍』を思わず連想してしまったのだが、本作の良い意味でのクセの無さやチープさ、そして、にも関わらず感じる満足感といったものは共通してやいないだろうか。きっと本作はタランティーノとは違うやり方で達成されたコピー世代による成果の一つなのだ。
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スカイライン』の勝因は、絵ヅラや表面的な物語だけでなく、作品の構造も律儀にパクっているところなのだと思う。


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たとえば、『宇宙戦争』の宇宙人や『クローバーフィールド』の怪獣は911やその後に行われたテロとの戦争の象徴だった。突如として圧倒的な暴力が顕われ、あっという間に日常が失われ、ゴミのように人が死ぬこと。そういうものの象徴だった。


それでは『スカイライン』の宇宙人が象徴するものとは何だろうか。ある朝起きたら世界は激変しており、外出すると命を失うかもしれないので自宅に閉じ込められ、まんじりとした不安の中で朝とも夜ともつかない日々を過ごす。テレビを付けても全く要領を得ず、青い光を浴びると肉体を蝕まれる。


宇宙戦争』を「物語が感じられない」という理由で批判する輩は、同じ理由で『スカイライン』を批判するだろう。何故、宇宙人は地球を侵略しにきたのか? 何故、人々は殺されなければならないのか? そういうのが全く説明されないじゃないか、と――
だが、我々は知っている。大きなクライシスの只中にいる時、物語を感じる暇などないことを。人生に意味などないことを。何故、破壊と暴力がこの世界に満ち溢れるのか? 何故、人々が大量に死ななくてはならないのか? そういった問いに帰ってくる答えが無いことを。
破壊と暴力と虐殺、それらは単なる風景に過ぎないのだ。我々にできることは、ただ家の中に閉じこもり、水や少量のストックが段々と無くなってゆくのに苛立ちつつ、ぐるぐると回る不安感に押しつぶされそうになりながら、来る当てのない救援を、或いは、死ぬのを待つことだけだ、それも、風景を眺めながら。


そんな時、まるで何かの映画のコピーのような風景は、我々の心に突き刺さる。
911WTCビルの崩壊は、まるでアクション映画のワンシーンのようではなかったか。
福島原発の水素爆発は、まるでパニック映画のワンシーンのようではなかったか。
このような状況下で、まるで何かの映画のコピーのような風景ばかりの映画――それも極めてクオリティの高い風景ばかりの映画を観ると、何かを感ぜずにはいられない。



物語とは主人公の成長だ。『宇宙戦争』は風景の映画であったが、最低限の物語があった。クレーンでコンテナ積んだり降ろしたりするのが得意なだけの男が、本当の父親になる物語だ。ただ、父親になった途端、父親であることを放棄せざるを得ないラストに、素晴らしさがあったのだが。
それでは、『スカイライン』の物語とは何だろうか? 勿論、妻の妊娠にびっくりするだけだった男が、父親の役割を受け入れる物語だ。だから「オレは家族を守るぞ!」なんて台詞が、唐突ながらも、入ってくるわけだ。


以下ネタバレ。



そんなわけで、あのラストには驚愕した。まさかこの*2シリアスシリアスな物語が、あんな人を喰ったラストで終わるとは! それまで、なるべくドキュメンタリータッチの映像で描写してきたのに、何故かジオラマみたいな画質で、しかも止め絵ときたもんだ。すわ! ジャンプの打ち切りか? それとも妻がみた妄想か?


……いやいや、あれは、あのラストは、希望なんだよな。


本作のラストを観て、自分が真っ先に連想したのは、東関東大地震の数日後に有志がヒーローになりきったツイートをまとめたTogetterだったりする。その後、ヒーローメッセージ大作戦というのもできたようだ。


こういうチャイルディッシュな希望が、妄想をフィルムに焼き付ける映画というメディアでは、実は一番大事なことなんじゃなかろうか……などと思ったり、思わなかったり。

*1:勿論、スピルバーグ

*2:表面上は