アイドルは誰か:『私の優しくない先輩』

私の優しくない先輩 (川島海荷、金田哲(はんにゃ)出演) [DVD]
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基本的に凄く面白いか、クソのようにつまらないかという両極端な映画しか感想を書く気力が湧かないのだが、この前オタ友に喋ったら「それ、ブログに書いた方が良いんじゃない?」と言われたので書こうと思う。


私の優しくない先輩」を観た。世間で言われてるようなどうしようもない映画とは思わないのだが、時代を変えるような傑作であるとも思わなかった。アニメ的文法を実写に置き換える手腕は非アニメ畑出身の中島哲也の方が優れている、とでも言おうか。


聞くところによればこの映画、「アイドル映画」というジャンルに属するらしい。自分は寡聞にしてそのような映画ジャンルを知らなかったのだが、うら若きアイドルが監督やプロデューサーの無茶な要求を受け、長時間走らされたり、変な衣装を着てダンスさせられたり、難しい演技を強要させられたり……といったさまをフィルムにおさめた映画なのだという。
現代のアイドルは資本主義が生んだ偶像だ。大衆の欲求に応えた完璧なルックスを備え、完璧なトークをこなしている。
しかし、その完璧さはあくまでテレビのバラエティー番組という世界の中での話であって、大抵のアイドルは映画の世界から求められる要求に対して十二分に応えられる体力もダンス・テクも演技力も無い。勢い、アイドルはスクリーンの中で苦悶の表情を浮かべたり、幼稚なダンスを披露したり、ダイコン演技を繰り返したりする。
そのような、『タマフル』でいうところの「完成度の中のほつれ」こそアイドル映画の魅力なのだ!……という。好例は大林宣彦の『時をかける少女』や『ねらわれた学園』、相米慎二の『セーラー服と機関銃』等々。なるほど、と思った。
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で、本作は川島海荷のアイドル映画であるというのが大勢の見立てであるわけなのだが、これに真っ向から異を唱えたのが宇多丸だ。

……というのが大意であった。なるほど、なるほど。
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たださ、実はこの映画、川島海荷よりもヤマカンよりも「アイドル」と呼ぶにふさわしい出演者が他にいると思うんだよね。
それは誰かというと、主人公の父親を演じた高田延彦だ!……というのは冗談で*1、ズバリこの映画におけるアイドルってはんにゃの金田哲じゃないかと思うのだ。


一時期に比べて落ち着いたとはいえ、はんにゃ金田の人気は今もって凄い。舞台に出ればあっちできゃーきゃー、こっちできゃーきゃー。どんなネタを披露してもきゃーきゃーが止まらない。ネタがつまらないというわけでは無いのだけれど、メインの客層からお笑いで評価されていないという意味で、はんにゃ金田はお笑い界のアイドルといえよう。
そんな金田が事務所の命令で映画に出演することとなった。芸人が役者として映画に出演する場合、普通はテレビやバラエティー番組のキャラを引き摺らないようにするものだ*2が、本作の金田はテレビとほぼ同じキャラを演じている。何故なら金田はアイドルであり、常に「アイドル」というペルソナを完璧なまでに維持しようとするのがアイドルという存在であるからだ。


はんにゃ金田は若手芸人としてもアイドルとしても高い能力値を誇っている。しかし、一方で役者としてのスキルはそれほど高くない。だから、長廻しのシーンでは声が上擦ってしまったり、台詞が一本調子になってしまったりする。表情は真面目な顔と狂ったような笑い顔の2パターンしかない。
つまり、それこそがアイドル芸人がアイドル映画でみせる「完成度の中のほつれ」であって、『私の優しくない先輩』ははんにゃ金田哲のアイドル映画である。だって、現に観客の半分は金田目当ての女性客だったんだもの!
……ということが言いたいのだが、なんかある意味普通のことのように思えて文章化しなかったのだけれど、せっかくなので書いてみました。


まぁ、きっとどんな映画であっても、それを観た観客一人一人の心の中でには、それぞれ違うアイドルが存在するんだろうな……という分かったような分からないような締めで今回は終わり。

*1:それでもプロレスに詳しい方ならこの見立ても可能だろう

*2:タマフルでは『そろばんずく』のとんねるずを例にだしていた。ちょっと前の『ヒーローショー』も同様。