ミームとしての「宝の地図」:「ドラゴンクエスト9」

ドラゴンクエストIX 星空の守り人
B000LXD7HO
ちょっと前に一念発起してドラクエ9を始めたのだが、いやこれ面白いわー。「つまらねー」「期待はずれ」「ガングロキャバ嬢妖精ウザい」という声にビビって発売日購入は控えていたのだが、もっと早くプレイすれば良かったよ。
いや、まだダーマ神殿に着いたばかりなので、シナリオについてはきちんとした判断をしかねるのだが、まず仲間が無個性ってところが良いよね。本編シナリオとは無関係の「クエスト」や素材を集める為に各地を放浪する「錬金」を含めて、なんだかドラクエ3っぽい。ドラクエ3は誰もが認める名作だと思うのだが、キャラを立てる方向に進化したのがドラクエ4〜8であったとすれば、それらとは真逆の方向に進化したのがドラクエ9である、と書けば理解して貰えるだろうか。それは、お仕着せのキャラクターを操作せねばならない最近の日本製RPG*1とも断絶しているということで、Amazonのレビューが荒れたりする原因はそこにあるのだろうが、ちょっと前まで「Fallout3」みたいな洋ゲーにハマりまくっていた自分としては、快適なことこの上ない*2Wiiで発売されるというドラクエ10もこういう方向で作って欲しいなぁ。「テリーの○○」とか、「ヤンガスの○○」みたいな関連作は作りにくくなるだろうけれど。



あとは、武器防具屋の24時間営業が嬉しいとか、ギラ系魔法の削除が哀しいとか色々あるのだけれど、それにしても、スレ違いじゃなかったすれちがい通信が本編以上に面白いとは思わなかった。
私は埼玉の川越市という、最近こそ「つばさ」で有名なものの、田んぼとアパートとコンビニが1ブロックに混在しているようなところに住んでいるのだが、そんなダサイタマのド田舎でも駅前やトイざらすに行けば宿客を呼び込めるのには驚いたな。
これなら都心はさぞかし凄かろうと所要で都心に出る際にDSを持って行くと、来るわ来るわの入れ食い状態。秋葉原ではものの数秒で3人集まったのには驚いたが、山手線に乗ってるだけでそれなりの人数を呼び込めたのにも驚いた。さすが出荷本数350万本。国民的RPG。日本の人口の約3%だ。そりゃ、すれちがうよな。
そういうわけで、電車に乗って外出する時は必ずすれちがい待機状態にしたDSを持ってゆくことにしているのだが、これが楽しい。楽しすぎる。車両に新しい客が乗ってくればワクワクし、目の前に人混みがあれば突入し、改札付近では立ち止まる。そしてDSを開き、何人集まったか、どんな面白コメントを書いてくれているのか、宝の地図は入手できたか、確認する。楽しい。楽しすぎる。宝の地図専用Wikiが作成されるほどの盛り上がりっぷりも理解できる。
トップページ - DQ9 ドラゴンクエスト9 すれちがい通信 wiki - アットウィキ


そうか、最近改札前で一心不乱にDSを見つめながら何時間も待機しているお兄さん達は、皆すれちがい通信をアンブッシュしてる猛者達だったのだな。しかも、彼らの狙いはすれちがい通信の際にお土産として貰えるレアな「宝の地図」のゲットらしい。


未プレイの方に説明すると、ゲーム内でこの宝の地図を持って地図の示す場所に行くと、レアなアイテムやら錬金素材やらをゲットできるかもしれない隠しダンジョンが現れるのだ。このダンジョンの最深部にはボスがいて、これを倒すと更に別の宝の地図を貰えるらしい*3。宝の地図はランダム生成され、噂によるとその種類は65万とも1677万種類とも言われている。チートで改造した宝の地図の存在も確認されているので、バリエーションはもっと多い。



出やすいアイテムやモンスターの種類は地図ごとに異なる。運がよければ、プラチナキングやゴールデンスライムばかり登場する地図や、はぐメタ装備やオリハルコンがじゃんじゃか出現する宝箱ばかり出る地図なんてのにも巡り合える。
勿論、自力で発見するよりも、そういいった地図をすれちがい通信で貰う方がより効率が良いことは言うまでもない。というわけで、はぐれメタルメタルキングばかり登場するフロアが存在する通称「まさゆき地図」や、レアアイテムが出る宝箱ばかり存在する「川崎ロッカーの地図」が話題となり、すれちがい通信を通じて日本中に広まっているのだそうだ。


【ニンテンドーDS】300万人のドラクエファンが欲しがる幻のアイテム『まさゆきの地図』 | ガジェット通信 GetNews


350万人のドラクエファンが欲しがる禁断のアイテム『川崎ロッカーの地図』ゲット! | ガジェット通信 GetNews


川崎ロッカーの地図」の正式名称は「あらぶる光の地図 Lv86」というのだが、私も先の都心巡りでそれらしき地図をすんなりゲットできてしまった。恐るべし、すれちがいネットワーク。
この地図、発見者の「さわぴ」という人が川崎駅のロッカーで配布することを2ちゃんねるに告知したことからその名がついたのだが、一人の人間の手ならぬDSで生成されたデータが複製を繰り返して日本中に増殖し、その一つが巡り巡って自分のところにも辿りついたことを想像すると、その壮大さになんだか興奮する。


これは大袈裟な話ではない。つまり、ドラクエ9における「宝の地図」ってのはミームの一種なのだな。


利己的な遺伝子 <増補新装版>
日高 敏隆
4314010037
リチャード・ドーキンスの利己的遺伝子説というのがある。生物とは遺伝子の乗り物に過ぎず、遺伝子はより多くの複製を遺す為に生物という乗り物を利用している、という考え方だ。この仮説に基づけば、突然変異によって生まれた「脚の速さ」や「警戒心の強さ」というような形質を決定する遺伝子は、「脚が速い」とか「警戒心が強い」という形質を生物に与えることにより、個体としての生存確率や繁殖効率を上げ、自身の複製を増やしている、ということになる。


ミーム・マシーンとしての私〈上〉
Susan Blackmore
4794209851


ミーム―心を操るウイルス
Richard Brodie
4062087375


このような科学的仮説を社会学に適用したのが「ミーム」という概念だ。たとえば、「宗教」は最も有名で強力なミームの一つだ。ある日、誰かの頭の中で「神」や「死後の世界」といった概念が生まれる。それらを受け入れることに精神的な安定や死への恐怖の低下に繋がる効果があることから、他の誰かに伝わり、どんどん複製され、継承されてゆく。継承や複製に連れてそれらは様式化され、明文化され、権威化し、継承や複製の効率が加速度的に増加してゆく。この時、「宗教」は強力なミームであるといえる。
最近だと、エコロジー=格好良いという価値観や、のりピー=重犯罪人で人間のクズという評価も、急速に複製を増やしたという意味でミームとみなせるかもしれない。


で、「まさゆき地図」や「川崎ロッカーの地図」は、ミームの一つといえるのではなかろうか。つまり、自動生成という突然変異で生まれ、DSというかDSを所有する人間を媒介とし、レアアイテムが手に入るとかレアモンスターばかりが出現するとかいった観点で選択を受け、すれちがい通信で自己複製するミームなのではないか、ということを主張したいわけだ。
ぶっちゃけミームという概念は、複製と突然変異と選択が存在する系ならばどれでも、無理矢理ながら当てはめることができるのだけれども、一時はオークションで3万円以上の値をつけていたレア地図入りソフトが一週間足らずで暴落しているのをみるにつけ、やはりこれはミームという概念を説明するうまい一例となりそうな気がする。

『ドラクエIX』をレア地図データ付きで『ヤフオク』出品! 3万5千円以上の高値 | ガジェット通信 GetNews
http://page4.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/d96189080
http://search4.auctions.yahoo.co.jp/jp/search?p=%A4%DE%A4%B5%A4%E6%A4%AD%A4%CE%C3%CF%BF%DE&auccat=2084063651


まぁ、ドーキンスもアジアの一国で生まれた携帯用ゲームにて、自身の社会生物学的仮説が当てはまるような自体が起こるとは想定していなかっただろうけれど。ただ、将来ドラクエ9の北米版が発売されたとして、電車という交通システムがそれほど発達しておらず、すれちがい通信し難いアメリカにて特定の宝の地図が全国的に広がるような自体が起こるかどうか、という疑問もある。ニューヨークやコミコンやE3なんかで局地的にダウンサイジングされた事例がおこるかもしれないけど。

もし改造版を入手してしまった場合は速やかに破棄するか利用は自己責任で
二次配布は絶対にやめましょう


また、国民性ということを考えると、チートで改造した地図が忌み嫌われるのは、遺伝子組み換え作物が嫌われるのと同じ構造があるのかな?とかなんとか思ったり思わなかったり。
いやね、データを破壊する可能性があるというのは分かるのだけれど、「Fallout3」や「Oblivion」といったパソコン洋ゲーだとMODが盛んで、公式MODといったものまであるじゃん。文化が違うといえばそれまでなのだけれど、やはり日本人は「自然じゃないもの」を「穢れたもの」と考えてしまうのかなー、DSというかゲームというメディアにおいてすら!……なんて思った。

*1:俗にJRPGと呼ばれるやつ

*2:だからこそ唯一の「喋る仲間」であるサンディがウザがられるのであろう

*3:「らしい」というのは、実際まだ倒せていないから