コピー世代の映画の作り方:「ドゥームズデイ」

面白い面白いという噂は聞いていて、秋葉原の輸入DVDショップにて北米版DVDを買おうとしたら、ご丁寧にも「9月劇場公開!」なんて紙片が貼ってあって、やっぱり劇場で観るべ*1と購入を踏みとどまった「ドゥームズデイ」を観てきたのだが、恐るべき怪作であった。


以下、ネタバレを含みつつ本作の流れを簡単に説明したい。


右目が義眼で時折眼帯つけてて常に冷静な女版スネーク・プリスケンみたいな主人公を演じるのはローナ・ミトラ。「アンダーワールド・ビギンズ」でヒロインにしては線の太さが印象的だった女優なのだが、本作では頼れる姐さんを好演だ。
で、彼女が「ニューヨーク1997」ライクに封鎖されたスコットランドに潜入する。それも制限時間付きで、ウイルスの解毒剤ならぬ特効薬を探すという基本プロットはいわば「エスケープ・フロム・スコットランド」だ。
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スネークは単身潜入したのだが、ローナ・ミトラは孤独な親父じゃないのでチームを組んで、しかも装甲車二台で「エイリアン2」ライクに潜入だ。しかも、ドライバーはきっちりパツキン女性。ここら辺でこの監督が「分かってる奴」であることに疑いを抱かなくなる。
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潜入チームにはカーペンターの他にミラーなんて名前のボンクラ男子もいるので、もしやもしやと期待していると、エイリアンの代わりに「マッドマックス2」の暴走族みたいなムキムキ蛮族が当り前のように登場。設定的には隔離開始からたった二十数年しか経ってないのだが、「北斗の拳」レベルまで文明が後退してしまったらしい。
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しかも、リーダーはモヒカンで、廃墟となったビル群の中で「オマエ達こそ悪だ」と「オメガマン」的台詞を放つ。オマケとしてデーモン小暮みたいなメイクをした彼女までいる始末。
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彼らが潜入チームの一人を拉致し、大盛り上がりで「ストリート・オブ・ファイヤー」や「ウォリアーズ」みたいにショーアップされたメタル系バンドのステージ的食人儀式を執り行うさまは圧巻だ。隊員が生きたまま火あぶりにされるのだが、ダミー人形とCGにて着火から絶命までをファインダーの真ん中で丹念に描写する。最近のシネコンのスクリーンではついぞ観られなかった光景だ。二重の意味で、失われた80年代的未来がここにある。潜入直後に装甲車がひいちゃうほど大群の牛がいたのに、わざわざ人を喰うのか!というツッコミは野暮というものだ。きっと人肉喰ってその人のパワーを得るみたいな呪術的理由があるんだよ、ウンウン。
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いろいろあって、「地球最後の男」的世界から脱出するチーム一行。この間のアクションできっちり焼死・轢死首チョンパと様々な惨殺方法をみせるのが、またしても信頼できるポイントだ。
その後、一行はプレートメイルで完全武装した騎士の一行にとっつかまる。一行は壁の中に取り残されたウイルス研究者であるケインを探せと命令を受けているのだが、ここでローナ・ミトラが一言。「彼らにケインの元まで道案内させてやる」彼女はエスパーなので、そういうことも分かるらしい。
ひっ捕えらえた一行が連れていかれたのは、中世レベルまで文化が後退した民衆を、マルコム・マクダウェル演じるケインが「エクスカリバー」や「キング・アーサー」や「ロード・オブ・ザ・リング」ばりに治める城であった。画質もすっかり変わってしまい、まるでパラレルワールドに移動したかのような雰囲気だ。
で、ローナ・ミトラは民衆が取り囲むコロッセオにてプレートメイルの重装騎士と「グラディエーター」ばりに一対一でガチンコ剣闘対決。
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そして、最後は何故か軍の倉庫に保管されていたベントレーと、食人カスタム車輌軍団との、やはりこれは外せないだろ!的な「ロード・ウォリアーズ」風カーチェイス
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全体的にみると、若干テンポが悪い部分はあるものの、終止ボンクラ男子大喜びの、ジャンクフード大量盛りみたいな映画であった。
この映画、面白いかつまんないかでいえば面白い。好きか嫌いかでいえば大好きだ。でも、本当にこれで良いのかという気もする。
というのはこの映画、結局オマージュとパロディをモザイクのようにコラージュしたに過ぎないだよね。原典を越えるものが何もない。


B級作品だから仕方がないといえばそれまでだよ。でも、我々はこれまで、表面上はオマージュとパロディに満ち溢れながらも、原典越えを果たそうという作品を沢山観てきた。たとえば「トップをねらえ」。たとえば「インディジョーンズ」。最近ではJ・J・エイブラムスの「スタートレック」。素材がジャンクフードでも人を感動させる料理が作れることを、我々は知っている。
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その観点からいうと、本作は惜しい。というか、勿体ない。メタフィクショナルな視点が足りないのが気になる、ということなのだが、その気になれば編集と台詞の変更で幾らでも文芸面でのレベルアップを狙えた筈だ。そうしなかったのは、その気がなかったということなのだろう。


一箇所、気になる台詞のやり取りがあった。剣闘試合の直前、ケインが牢に入れられた主人公に「オマエは何を失ったのだ」と尋ねる。その場では何も答えない。だが、重装騎士の頭を兜ごと潰したあと、主人公はこう答えるのだ。「失ったのは心だ」と。これが、まるでオマージュやパロディに注力した結果、作品としてのスピリットを失ったことに、作り手自身が言及してるかのように聞こえてしまった。


ただ本作、唯一オリジナルを上回っているかもしれない点がある。それは残虐描写だ。きっちり血が流れるし、きっちり首も飛ぶ。最近のシネコン映画がカメラを振って音だけで済ますシーンも、ちゃんと人形とCGで人体がバラバラになるさまを映像として映している。この種の映画でここがしっかりしてる・してないは大違いだ。これで、モヒカン軍と重装騎士軍団との全面対決みたいな、異なる世界観をアクション映画的にアウフヘーベンするシーンがあればなぁ。


あんまり関係無いけど、「BALLAD 名もなき恋のうた」や「ウルヴァリン」も、この位残酷描写に力を入れておけば名作になったかもしれないな。

*1:考えてみると良心的なショップだ